地上波を失っても終わらない —「国際配信×コンテンツ」で立て直す巨大メディアABS-CBNへ潜入!!

  • HOME
  • 記事
  • 訪問レポ
  • 地上波を失っても終わらない —「国際配信×コンテンツ」で立て直す巨大メディアABS-CBNへ潜入!!

地上波を失っても終わらない —「国際配信×コンテンツ」で立て直す巨大メディアABS-CBNへ潜入!!


■フィリピンメディア業界の基本

フィリピンのテレビ/メディア/芸能業界は、長年にわたり「ABS-CBN」と「GMA Network」の2社が“2強”として牽引してきた世界です。日本でたとえるなら、キー局が2社あって、その2社がテレビ放送だけでなく、ニュース、番組制作、スターの輩出まで含めて、業界全体の「流れ」を作ってきた — そんなイメージに近いかもしれません。

もちろん、地方局を含めれば独立系・中堅のメディアは昔から存在します。たとえば TV5 や UNTV など、プレイヤー自体は複数あります。ただ、それでもまず前提として「ABS-CBNとGMAが2トップとして中心にいた」という構造を押さえておくと、ぐっと理解しやすくなると思います。

■今回お話するABS-CBNについて

出典:ABS-CBN / GMA Network

そして今回取り上げるのは、その2強の一角である ABS-CBN です。長年に渡り国民的番組やスターを数多く生み出してきた大手メディア企業として知られています。言い換えるなら、フィリピンのテレビ文化のど真ん中にいた会社です。

そんなABS-CBNが、2020年に放送免許(フランチャイズ)の更新をめぐる問題で地上波の主力放送を失う流れになった ── これは当時、かなりセンセーショナルに報じられました。2強の片方が地上波を失うというのは、業界の前提がひっくり返る話です。日本でたとえるなら、キー局のどこか1社が突然「地上波放送」を失う、くらいのインパクトに近いと思います。

もちろん、原因については単純ではなく、制度上の論点や政治的背景など、さまざまな見方が報道でも語られてきました。報道の文脈では「免許更新が認められず放送停止に至った」という制度上の出来事として整理される一方で、当時の政権との対立や報道姿勢を背景に、報道の自由という観点から批判的に語られることも多かったテーマです。

そしてここがポイントなのですが、こうした複雑な事情を全部追い切るのは一般の視聴者には難しいこともあって、市民の印象としてはかなりシンプルに──「前ドゥテルテ政権時代に政権批判をしていたから、止められたんでしょ?」という受け止め方に寄って語られていたようにも感じます。もちろんこれは“印象”の話であって、本記事ではそこを断定せず、「当時の報道ではこういう出来事として扱われていた」というレベルに留めます。

本当に書きたいのは、その“その後”です。地上波を失っても終わらない。ABS-CBNは「国際配信×コンテンツ」を武器に、放送局という枠を越えて“コンテンツ会社”として再構築を進めていました。今回はその現場に実際に潜入し、社内見学や関係者とのミーティングを通じて見えたことを、訪問レポとしてまとめます。

■ABS-CBNの概要:「国際配信」と「コンテンツ」こそ主役だった

改めまして、今回訪問したのはフィリピン巨大メディアの ABS-CBN(場所は ABS-CBN ELJ Communications Center)。正直、2020年に地上波の主力放送を失った…と聞くと、「いや、それって致命傷じゃない?」って思うじゃないですか。実際、当時の報道でも “株価は大きく下がり、売上も急減” みたいなトーンで語られていました。でも、現地で見た今のABS-CBNは、空気がまったく違いました。「地上波がない放送局」というより、国際配信とコンテンツを軸に回る“総合コンテンツ企業”として、すでに作り直されている。 — そんな印象が強かったです。

ちなみに、今回の案内を中心に担当してくれたのは レイモンドさん(アジア太平洋地域イベント統括責任者)。ABS-CBNの全体像が一目で分かるよう丁寧に案内してくれました。セキュリティや安全体制については グランツさん(来客対応・セキュリティ統括責任者)が解説。

ざっくり会社の“今の強み”まとめ
・老舗のど真ん中:1957年、フィリピンで最も古いTV局で、デジタル放送化も国内で一番最初だったとのことです。

・海外向けの柱:海外向けの柱として、海外向けチャンネルである TFC(The Filipino Channel) を運営。フィリピンは海外への出稼ぎ労働者(OFW)が非常に多く、TFCはそうした人々にとって母国のニュースや生活情報に触れられる重要な情報ソースになっています。加えて、OFWからフィリピンに送られる送金額は年間で約350〜380億米ドル規模に達し、GDP比でも約8〜10%を占めるとされます。つまりTFCは、世界中のOFW本人だけでなく、送金を受け取る家族・世帯まで含めた「海外収入を持つ大きな経済圏」にリーチできる点が、メディア企業として他社にはない大きな強みだと言えます。

・VODも自前で持つ:サブスク型の配信サービス iWant(旧iWantTFC)を展開。iWant Originalsなど独自コンテンツも抱えつつ、ABS-CBNは“コンテンツ会社”としてデジタル向けの制作・配信を強化している。

国際配信の中枢がガチ:世界配信用の「国際コントロールルーム(通常非公開)」を特別に見学(撮影NG)。現地説明として「他局もABS-CBNの配信システムを利用している」とのことで、国際配信の運用面・技術面での信頼が相当厚いんだな…と納得。そして、国としても非常に重要なインフラ設備を運営していることを実感しました。

音楽IPが強い:音楽レーベル「Star Music」 を中心に、TV・デジタル・SNS・海外配信まで“まとめて動かせる”のが強み。その成功例として分かりやすいのが、フィリピンを代表するガールズポップグループの「BINI」 です。最近は音楽アワードでも名前を聞かない日がないくらい存在感が強く、まさに国民的な勢い。さらに「今のフィリピンで、万単位の会場を埋められる女性グループの代表格」として語られることも多く、人気と動員力の凄さが“共通認識”になっている印象です。

■社内見学:スタジオ/国際配信の中枢/そして厳格な安全体制

国際配信の中枢(撮影NG)もインパクトがあったんですが、見学でいちばん「おお…」となったのは、セキュリティと安全体制の厳格さでした。説明の中でまず出てきたのが、「欧米やハリウッド級の来賓にも対応できる基準で運用している」という話。言い方が誇張っぽく聞こえるかもしれませんが、実際に入退室の導線や撮影NGの扱い、案内の細かさを見ると、「あ、これは単に厳しいんじゃなくて“前提が違う”んだな」と腑に落ちます。

そしてさらに驚いたのが、敷地内に救急車と消防車が常時待機していること。ここは普通に「え、テレビ局(というか制作拠点)でそこまでやるの?」となるポイントで、現場を見て初めてスケール感が分かりました。付近の火事の場合、ここから出動することもあるそうです。その上で印象的だったのが、担当者の口から 「社会的責務」 という言葉がはっきり出てきたことです。単に「大企業だから安全対策をしてます」ではなく、地域や周辺も含めた“責任”として語っていたのが、すごくABS-CBNらしいなと感じました。

音楽の話になると、BINIが “総合力の成功例” として出てくる

見学の流れの中で音楽IPの話になった時、成功例として象徴的に挙がったのが BINI でした。“総合メディアだからこそ推せる”という構造が分かりやすくて、TV/デジタル/SNS/海外配信/ワールドツアーまでを一気通貫で回せることが、ヒットを育てる上で強いんだな…と。ワールドツアーの話も含めて、「国内で当てる」だけじゃなく「世界に持っていく」発想が、会社の運用思想として自然に存在している感じがしました。そしてこれはまさに、日本のエンタメ業界が長年課題として抱えている“海外展開の仕組み化”という点で、かなり参考になる部分だと思います。BINI の制作におけるキーマン中のキーマン、ディレクター Mickey Perez さんにもご挨拶できました。現在注力している「J-POPのフィリピンローカライズ」に関して簡単に説明させていただき、個人的にテンション上がった。(写真はコチラ↓)

■海外事業部と30分ミーティング:日本側への温度感が高かった

社内見学のあとは、海外事業部の皆さんと30分ほどミーティング。正直、こういう場って“名刺交換して終わり”になりがちじゃないですか。ところが今回は、空気感が違いました。いい意味で、最初から「次の具体」に入りやすい温度があったんです。何より大きかったのは — 国際事業部の統括責任者である マリベル さんと、しっかり時間を取ってディスカッションできたことです。

Maribelさんと深く議論した3つのテーマ】
① 日本の地方誘客プロジェクト(地方創世&オーバーツーリズム緩和)
日本の地方をどうPRするか、という話題では、フィリピン人タレント・旅番組・インフルエンサー活用への関心がかなり強く感じられました。ロケ、キャスティング、放送、海外向けPRまで含めて「どう組めるか?」の会話になり、さらに「日本の地方自治体との連携は価値のある取り組み」と高く評価してもらえたのも嬉しかったポイントです。

② 日本アニメソングシンガー/アーティストのメディアコーディネート
TV出演、ニュース枠、スタジオ撮影、デジタル露出などを総合的に支援可能という話が出て、ABS-CBN内で「実現できる範囲で最大限協力する」と明言。さらに Star Music や各番組と連動したプロモーション展開も視野に入る、というのはかなり大きい示唆でした。

③ 弊社アーティストのフィリピンデビュー支援(Nanao)
そして弊社アーティスト Nanao にも強い興味を示していただき、番組出演、PR、デジタル連携など多方面で協力可能とのこと。
「新しいコンテンツ、チャンスを積極的にサポートしたい」という前向きな姿勢が、とても印象に残りました。(2026年Nanaoはフィリピンの大手音楽レーベルよりデビューが決まっております。)

「チャンスがあれば、いろいろ相談してほしい」
「アニソンシンガーのメディアコーディネート等も相談してほしい」

こういう機会で、ポンポンとアイデアや展望の話が出てくるところが、海外の企業と仕事をする面白さというか — 日本を飛び出して仕事をする楽しさだな、と素直に感じました。

今回ご対応して下さった皆さん、そしてウチの超優秀な営業のMariaさん、貴重な機会を作って頂いてありがとうございました!!


関連記事一覧