フィリピン最大級の音楽アワードで見えたフィリピンのトレンドと考察 ー 【J-POP】フィリピン市場に入り込む余地あるんじゃないか説
フィリピン最大級の音楽アワードで見えたフィリピンのトレンドと考察 ー 【J-POP】フィリピン市場に入り込む余地あるんじゃないか説

出典:Wish107.5
2026年1月11日(日)、フィリピン最大級の音楽アワード 『11th Wish Music Awards』 (以下、WMA)の授賞式を現地で観覧してきました。今回で11回目となるWMA、会場はケソン市はクバオにある Smart Araneta Coliseum という大型会場です。“授賞式” と聞くと静かに見守るイメージを持つかもしれませんが、ここはむしろ逆。入場から歓声が強くて、空気としては「大型歌番組+アリーナライブ」みたいな熱量で進んでいきます。
で、今回この会場でずっと考えていたのが、フィリピンの音楽トレンドのこと。特に、ヒットチャートが「ミドルテンポ以下」に寄りがちな点と、そこに対して「J-POPを基調にした踊れる明るい曲」が入り込める余地があるんじゃないか?という仮説です。あくまで個人的な考察ですが、せっかく現地で生の空気を浴びたので、WMAの話とセットでまとめてみます。フィリピン・エンタメCHのYouTubeもあるので、よかったらそちらもご覧ください。
■まずWMAについて(この記事から読んだ人向けに)
WMAを主催しているのは、フィリピン最大級の音楽メディア「Wish 107.5」 です。ラジオ局としての顔を持ちつつ、YouTubeやSNSでも非常に存在感が大きく、いわば「放送×デジタル×現場」を一緒に回しているタイプの強い音楽メディア。だからWMAも、ただの授賞式ではなく、ライブや演出で会場の温度を上げながら“イベントとして成立させる”作りになっています。
「Wish107.5」については、以前記事にしているので、コチラ↓↓をお読みになってからの方が、分かり易いかもしれません。
【登録者1500万人超】フィリピン最大級の音楽メディアWish107.5、見学においでって言われたから乗り込んでみた!
■ここ20年の音楽トレンド推移とJ-POPフィリピン市場の考察:
アコースティック/バンドブーム → ポップロック/熱唱系(+洋楽感強め) → バラード/インディ系メロウ → フォークポップ/個性派バンド → P-POP台頭 → オルタロック/インディポップ
※HIPHOPはずっと強い
私の理解では、ここ20年くらいの流れは大きくこんなイメージです。
ここからが本題です。フィリピンの方って、歌も踊りも好きで、明るくてパーティー好きな人が多い印象があります。なのに、ここ10〜15年くらいのOPMヒット(洋楽以外の国内楽曲)をざっくり振り返ると、体感としては、ゆったりした曲がずっと強い。バラード、メロウ、歌詞や曲の世界観を大事にするタイプの曲です。(※現地語を話せないので歌詞に関しては想像です。すみません。笑)
じゃあ「踊るとき、何を聴いてたの?」という話になると、答えはかなりシンプルで、いわゆる洋楽(アメリカのポップス)でした。レストラン、クラブやバーはもちろん、コロナ前のフィリピンは生演奏が聴けるお店が本当に多く、明るい曲・乗れる曲の定番は、体感では“ほぼ洋楽”。どこに行ってもビヨンセ、みんなビヨンセ。というくらい、洋楽が日常に溶け込んでいたイメージです。当時を知っている方なら「わかるわかる」と頷いてくれるはず。フィリピンは英語が通じる環境も大きいので、洋楽が日常的に聴かれやすいのも納得です。
つまり、当時はざっくり役割分担ができていたと思います。
- OPM:スロー寄りで、言葉や感情を大事にする(聴かせる/沁みる系…たぶん)
- 海外曲(洋楽):ノリやダンス担当(盛り上げる/踊る系)
こう捉えると、ヒットチャートの中身にもいろいろ腑に落ちます。
そして、この空気を大きく変えたのが、K-POPのブームと、そこから一気に伸びたP-POPです。K-POPって、音楽だけじゃなくて「パフォーマンス込みで観る」「踊って楽しむ」「推して応援する」が、フィリピンの気質と相性が良かったんだと思います。
当然その熱は、「じゃあフィリピンのポップでも、それをやりたいよね?」に繋がる。そもそも踊るのも歌うのも大好きなフィリピンの皆さんが、“踊れる国内ポップ”を嫌いなわけがない。むしろ、長いあいだ海外曲に寄っていた「盛り上げ担当」を、P-POPが取り返し始めた ― そんな見方もできます。
で、ここが今回の結論です。P-POPが伸びたということは、「国内ポップでも踊れる曲が欲しい」という需要が、ちゃんと市場として成立したということ。だったら、J-POPにもチャンスはあると思っています。J-POPは、メロの強さ、王道の展開、サウンドの気持ちよさが武器になる。そこに“踊れる設計”(ビート感、サビの抜け、振り付け前提のフック、みんなで歌えるキーワード)をちゃんと足せば、勝負できる余地は十分ある。
要するに、「OPMは沁みる担当、盛り上げは洋楽担当」だった構造が、P-POPの登場で崩れ始めた。だから今は、 “【J-POP】フィリピン市場に入り込む余地あるんじゃないか説” を唱えられるという事です。唱えるだけでなく、実は本気で取り組んでおります。弊社の【J-POPのローカライズ実証プロジェクト】については、また改めて記事にしたいと思います。
※用語の補足:フィリピンでは、K-POP的な流れを汲む国内のダンス/グループを P-POP と呼ぶことが多いです。一方で、フィリピン発の音楽全体を OPM(Original Pilipino Music) と呼ばれたりもします(※文脈によって使い分けがあります)。
■WMA現地レポ
では、ここからWMAのお話をしていきたいと思います。
今回のWMAでまず面白かったのが、入場からすでに「本番」が始まっていること。レッドカーペット…ではなく、Wishカラーでもある “オレンジカーペット” が用意されていて、ノミネートや出演者が会場入りするたびに、その様子がリアルタイムで会場のスクリーンに映し出されます。これが想像以上に盛り上がる。映るたびに会場がドッと沸いて、歓声が一段も二段も上がります。「開演前」って概念が薄く、入場演出の時点からイベントが走り出している感じです。
いわゆるVIPチケット的な枠もあるようで、オレンジカーペットの撮影やインタビューをより近い位置で見られるエリアが用意されているっぽいです。撮影班が動くたびにそのエリアが一番盛り上がっていました。

[オレンジカーペットとインタビューエリア]
このオレンジカーペット中継、もうひとつ“フィリピンっぽいな”と思ったポイントがあって、スクリーンに映し出される人によって歓声の量が全然違うんですよね。人気アーティストが映ると会場が割れるように沸く。一方で、反応が薄い瞬間もある。いい意味で素直な反応なんですが、ちょっといたたまれなくもあり、ちょっと面白くもあり…。「この人誰?」感を出す前に、とりあえず全員拍手してあげてください!って思ってしまうのは、日本人的な感覚でしょうか。笑(でも逆に言うと、人気のリアルが秒で可視化されるのが現地イベントっぽくて面白いところでもあります。)
会場まわりも“アリーナ感”がしっかりあって、ピザやスナックなどの軽食も売っていて、飲食もしやすいです。売り子さんが回ってくる雰囲気も含めて、「授賞式」というよりフェス・イベント寄り。こういうところも含めて、WMAが「イベントとして成立している」理由がわかる気がします。


[カメラに気づいてハートを送ってくれた店員さん]
そして本番。ここはもうシンプルに、めちゃくちゃ良かったです。良い席を用意してもらっていたのもあり、ステージの熱量がダイレクトに来る。受賞発表の合間に挟まるパフォーマンスもクオリティが高くて、テンポも良いし、会場の熱が落ちない。授賞式って、進行が間延びしがちなイメージもあると思うんですが、WMAはそこが上手い。(チケット手配してくれたKDRチームの皆さん、ありがとうございました。)
そしてWMAのもう一つの特徴が、社会貢献の仕組みがきちんと組み込まれているところ。代表でもあるダニエル・ラゾン氏はチャリティーにも力を入れていて、受賞と寄付をリンクさせる形で、イベントの熱量をそのまま社会に還元する設計になっています。印象的だったのは、ダニエルさんからのビデオメッセージが流れる瞬間。さっきまでの“フェスの熱”が一瞬スッと落ち着いて、会場の空気が少し締まるんですよね。長年この業界をけん引してきた方へのリスペクトが、会場全体を包むような空気感がありました。




[奥様との一幕]
受賞まわりで言うと、今年はTJ Monterdeの年でした。代表曲のひとつである『Palagi』をきっかけに一気に存在感が広がった印象もあって、「この人が呼ばれたら会場が一段上がる」感じが分かりやすかったです。さらに、奥さんのKZ Tandinganさんと抱擁を交わした瞬間がスクリーンに抜かれたときの歓声がすごい。歓声の“質”が変わるというか、一気に黄色い方向に加速するというか(笑)
“全部持っていく”の話で言うと、去年は前述のSB19が主要な賞を総なめしていた年でした。日本で言うならMrs. GREEN APPLE状態。こういう「その年の顔」が分かりやすいのもWMAらしいなと思いました。
余談ですが、フィリピンのエンタメって、恋愛ネタを割とオープンに扱う印象があって、ドラマ共演者を「すぐくっつけたい」空気も強いらしいです。なので、人気ドラマのカップルが“アイコン化”しやすいし、ファンの盛り上がりも加速しやすい。そういう熱量も含めて、エンタメが回っている感じが面白いです。
その他、主な受賞アーティスト(主要部門)
- Wish Artist of the Year:TJ Monterde
- Wish Group of the Year:Cup of Joe
- Wish Breakthrough Artist of the Year:Earl Agustin
- Wishers’ Choice Award:SB19
— といった感じで、WMAは「授賞式」という言葉から想像する静かな空気とは真逆で、入場から最後までずっと熱量が高い“音楽イベント”でした。ここまで来ると、会場の盛り上がり方も含めて「踊れるポップが伸びる余地」という話とも、ちゃんと地続きで見えてくる感じがします。この熱に充てられて、我々も気合が入ります! “J-POP”をどうローカライズしていくか、大いにチャレンジしていきたいと思います。
